2016年11月9日
不動産売買契約において必ず出てくる「手付金」。よく耳にする言葉ではありますが、その意味を正確に理解している人は少ないのではないでしょうか。今回は、この手付金についてお話をしたいと思います。
■本来は返還される
通常の不動産売買契約では、契約締結時に手付金を支払います。契約締結から約1カ月後に残代金を支払い、晴れて買い主に所有権が移転します。
ところでこの手付金、実は売買代金の一部ではないのです。
本来、手付金は契約締結時に売り主にいったん預けて、売買代金全額を支払う際に、売り主から返還してもらうという位置づけのものです。
ただ、いちいちこのような手続きをするのは面倒なので、契約書には「手付金は残代金支払いのときに売買代金の一部として充当する」と書かれるのが一般的です。
■3種類の内容を確認
手付金には大きく「解約手付け」「違約手付け」「証約手付け」という3つの種類があります。一般には解約手付けについて知っておくとよいかと思います。
解約手付けとは、「買い主は、売り主が履行に着手するまでは、売り主に対し支払い済みの手付金を放棄(手付け流し)して売買契約を解除でき、売り主は買い主が履行に着手するまでは、買い主に対し手付金を買い主に返還するとともに、手付金相当額の金銭を買い主に支払う(手付け倍返し)ことで売買契約を解除できる」というもの。
ここで問題となるのが「履行に着手」という意味です。
この意味が曖昧なままだと、後日トラブルになることがありますので一般の取引では、「履行に着手するまで」ではなく、一定の期日を定め、その日までであれば「手付け流し」または「手付け倍返し」ができるような内容であることが多くなっています。
ただし、売り主が不動産屋の場合は、一定の期日を定めることは許されていませんので、「履行の着手」の解釈で論争にならないよう、その解釈については契約前に確認したほうがよいでしょう。
なお、一般に「売り主」側の履行の着手とは、以下のようなものとなります。
(1)売り主が物件を引き渡したとき
(2)売り主が買い主のための所有権移転登記申請手続きに着手したとき
(3)売り主が物件の一部を引き渡したとき
(4)売り主が買い主の事情で所有権移転登記を残代金決済前に行ったとき
(5)買い主の希望に応じて建築材料を売り主が発注した場合や工事に着手した場合
一方、「買い主」側の履行の着手とは、以下のようなものとなります。
(1)買い主が内金(手付金ではなく、売買代金の一部)を支払ったとき
(2)買い主が新居への引っ越しを前提に引っ越し業者と契約を締結したとき
(3)買い主が新居用の家具を購入したとき(どこでも使用できるような家具は除く)
(4)引き渡し期日を経過し、残代金支払いの準備ができているとき
(5)残代金を支払ったとき
違約手付けと証約手付けは、解約手付けのように、手付金相当額を支払えば解除できるというものではありません。想定されているのは「契約違反による解除」となりますので、違約金や損害賠償金を支払わざるを得なくなります。
違約金や損害賠償金は売買代金の20%程度とされることが多く、手付金よりも多額となるのが通常です。ですから、一般の方が不動産売買を行う場合は、違約金ではなく解約手付けになっていることを確認しましょう。
■金額の確認が重要
手付金の額が僅少である場合、売り主も買い主も気楽に契約を解除できてしまいます。例えば、手付金1万円だったら、安易に契約してしまっても簡単に解除できそうですよね。これは売り主にとっても同じことがいえます。
一方、手付金額が大きい場合、売り主も買い主も簡単には契約を解除できず、本来の機能を果たせなくなってしまいます。
そもそも解約手付けとは、一般の個人の方々が一定の手付金相当額を支払えば、契約を解除できるようにしようという趣旨ですから、手付金の額にはある程度のバランス感が必要です。一般的には売買代金の5~10%程度が適切でしょう。
もし、手付金の額があまりに僅少あるいは過大である場合、なぜそのようなことになるのか、仲介業者にその意図を確認すべきでしょう。
ちなみに、売り主が不動産業者の場合は、売買代金の20%を超えて手付金を受領することはできないことになっています。
■放棄すれば解約はできるが……
さて、解約手付けのルールに基づき解約できたら、これで安心というわけではありません。中古住宅の売買では、一般に仲介業者が介在します。仲介業者は契約が成立しさえすれば、依頼者(売り主または買い主)に仲介手数料を請求できるというのが原則なので、手付金を放棄して契約を解除しても、仲介手数料を請求されることがあります。
ですから、契約する前に万が一、解約となった場合の仲介手数料の取り扱いについて、事前に確認しておくことが大切です。